審決全文は現時点では未公表です。しかしながら、この審決によって、請求項に係る主題に対して適用される部分優先の有効性の判断基準が明確になることは明らかです。
今回公表された審決は、請求項が、最初に、直接的に、若しくは少なくとも黙示的に、明瞭かつ実施可能な態様で優先権書類に記載されていた主題を包含する場合には、他の実質的な条件または制限が課されることなく、部分優先を有効とすべきであると示唆しています。
しかしながら、EP出願の請求項が、(例えば、包括的用語を使用することによって)上位概念化された主題を含んでいて、当該主題の一部(より一般化された主題に含まれる択一的な主題)のみが優先権書類において適切な記載の根拠を有している場合に、この択一的な主題が部分優先の利益を享受できるのか否かについて完全に理解するためには、審決全文の公表後にその内容を分析する必要があるでしょう。
この審決は、いわゆる「毒入り分割出願」のスキームがどのように適用されるべきかについて影響を与えることになります。
「毒入り分割出願」のスキームは、近年の欧州において確立されてきたもので、次のような条件の下で成立していました。
こういった状況は決して稀ではなく、相当な数の案件が潜在的に関係しています。
このような条件の下、「毒入り分割出願」のスキームが適用された場合、劇的な結果をもたらします。すなわち、EP出願の拒絶、或いはEP出願に基づいて登録された特許の無効につながるのです。
この結果は、欧州特許制度における3つの特徴を組み合わせることによって導き出されていました。
この毒入りスキームによれば、分割出願によってその親出願が拒絶されるという直感とは相容れない結果が導き出されます。しかしながら、この考え方は、最初のEP出願を基礎とした優先権主張を伴う後のEP出願の請求項に対して、当該最初のEP出願が先行技術になるという「基本的」毒入り優先権のスキームを単に応用しただけに過ぎないという見方も可能です。このような「基本的」スキームにおいて、最初のEP出願は、同出願に基づく優先権を享受できない後の出願のいずれの請求項に対しても(新規性の評価の点についてのみの)先行技術になり得ます。
このような考え方は、近年のEPOの審決において既に認容されており、欧州では、請求の範囲の拡張がなされていて、かつ少なくとも1つの分割出願を伴う特許に対する典型的な攻撃手法の1つになりつつありました。また、毒入りスキームは、欧州各国の裁判所における無効化手続きにおいても利用されています。
この毒入りスキームに対しては重大な懸念が表明され、議論の対象になってきました。それに加えて、判例においても幾分の見解の相違がみられる状況に鑑み、5つの質問がEPOの拡大審判部に付託されました(T 557/13から派生した審判事件G1/15)。質問2~5までは、質問1に対する回答が肯定的である場合にのみ検討される必要があったものであり、最初の質問がとりわけ重要な意味を持っていました。質問1の内容は次のとおりです。
1.EP出願またはEP特許の請求項が、1または2以上の包括的表現その他の表現を用いることによって、択一的な主題を包含するものである場合(包括的「OR」請求項に該当する場合)、優先権書類において最初に、直接的に、若しくは少なくとも暗示的に、かつ明瞭に(実施可能な態様で)記載された択一的な主題に関して、EPCの規定の下では部分優先の有効性が否定されるのか?
この質問は、部分優先の有効性が、より厳格な、いわゆる「逐語的」手法によって判断されるべきなのか、或いは比較的緩やかな、いわゆる「概念的」手法によって判断されるべきなのかという疑問を実質的に投げかけたものです。この質問に対する回答は、ひいては「毒入り」スキームが欧州の特許制度として存続すべきか否かという点につながります。
今回の審決に先立ち、拡大審判部の施行規則第10条の規定に従って、利害関係人以外に対して書面による意見提出の機会が付与されました。多数の意見が提出され、それらの多く(国際弁理士連盟(FICPI)によって提出された意見も含む)は、「概念的」手法による部分優先の認定を実質的に支持するものでした。
拡大審判部が質問1に対する回答を「否定的」とする今回の審決を発表した(それは同時に質問2~4がもはや意義を有しないことを意味します)ことによって、この論争に終止符が打たれることになります。すなわち、部分優先が「概念的」手法、すなわちより緩やかな手法によって認定されることが確認され、それにより、欧州における毒入りスキームの成立はおそらく今後制限されることになるでしょう。いずれにせよ、まもなく公表される審決全文を分析することによって、拡大審判部による審決の論拠を完全に理解することができるはずです。
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