2021年EPO審査基準の改定

12021年EPO審査基準の改定2021年4月9日欧州特許庁は、2019年11月以来となる審査基準の改定を行いました。改定審査基準の施行日は2021年3月1日です。出願日(優先日)には関係なく、係属中の案件に適用されます。

欧州特許庁(EPO)の審査基準は、新しい審決例や運用上の変更、既存の規定の明瞭化等を目的として、随時見直しが行われており、ほぼ毎年更新されています。

本稿では、2021年の改定事項のうち、特に実務上の影響が大きいと思われる明細書の記載要件と、ビデオ会議による口頭審理について説明します。

(1)クレームとの一貫性に関する明細書の記載要件-F-IV, 4.3

https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/f_iv_4_3.htm

従前よりEPOのプラクティスでは、明細書の記載をクレームに対応させることが求められていました。例えば、補正によりクレームが減縮された場合、その結果としてクレームの範囲に含まれなくなった開示内容は、クレームに係る発明を意味する「発明(invention)」や「実施形態(embodiment)」という表現を使用することができず、「例(example)」や「開示(disclosure)」等と変更する必要がありました。

今回の改定審査基準では、この一貫性の要件がより厳格になることを示唆する内容になっています。具体的には、「独立クレームの範囲から除外された実施形態は、(原則として)削除されなければならない」と規定されています。そして、例外としてそのような実施形態を削除しなくてよいのは、「補正後のクレームの具体的特徴を強調するために有用であると合理的に認められる場合」と定められています(F-IV, 4.3(iii))。

また、クレームの範囲から外れた「実施形態(embodiment)」を単に「例(example)」とし、或いは「発明(invention)」を「開示内容(disclosure)」とする等の具体性を欠く表現上の変更では、一貫性の要件を充足するのに不十分であり、例えば、「発明の範囲に含まれない例(example not covered bythe claimed invention)」等と、より直接的な表現を使用することが必要であると規定されています。

以上述べたこととは逆に、独立クレームを限定する特徴については、「好ましくは(preferably)」、「may(〜であってもよい)」、「任意に(optionally)」といった非限定的な表現を用いるべきではないとされています。この規定の趣旨も、クレームと明細書の規定に一貫性をもたせるためです。

このような厳格にみえる要件が実際にどの程度要求されるかは今後様子を見る必要があります。場合によっては現地代理人の作業量が増え、出願人の費用負担増につながるおそれがあるので注意が必要です。

(2)ビデオ会議による口頭審理の実施を明文化-E-III, 1, E-III, 2.2他

https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/e_iii_1.htm

https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/e_iii_2_2.htm

ヨーロッパ各地に重大な影響をもたらしているパンデミックを契機として、EPOでは2020年夏頃から査定系(出願審査)及び当事者系(異議申立)の事件について、ビデオ会議システムを利用した口頭審理が実施されています。EPOは、当事者の合意がなくても原則として口頭審理をビデオ会議で行う方針を進めています。

今回の改正では、ビデオ会議による口頭審理に関する規定が関連箇所に盛り込まれています。このような動きは、ビデオ会議の活用をパンデミック対策の一時的措置ではなく、恒久化していくEPOの意向があるものと推測できます。

他方では、当事者の同意なく口頭審理をビデオ会議で実施することは、当事者の権利侵害に該当するとして批判の声も強く、今後の展開を注視する必要があります。

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Published by

田原正宏

欧州特許弁理士・日本国弁理士
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